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架空サントラシリーズ「あたらよ」を制作しました

ハシマミの妄想全開、架空サウンドトラックシリーズ第二弾。

Original fictional soundtrack『あたらよ』

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私は九尾の狐

人を騙し喰らう

ただの化け物だ

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1.朱色と白
2.縁
3.したもい
4.七つ下がりの雨
5.紅差しの指
6.魂合ふ
7.代償
8.九罪の数え歌 (feat. Sennzai)
9.瑞獣
10.紅涙
11.虚
12.こい文 (feat. Sennzai)

※「8.九罪の数え歌 (feat. Sennzai)」「12.こい文 (feat. Sennzai)」はフリーBGMに含まれおりません。サブスク・YouTube(MV)でお楽しみ下さい。

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■登場人物

・草間 千冬(くさま ちゆふ)
 尾の狐の血を引く。人間は「自分と一族が生きながらえる道具」と考えている

・草間 景由
 千冬の父親。九尾の狐一族の長

・佐々木 幸明 (ささき こうめい)
 町に住む青年。千冬に想いを寄せる

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狐の一族に生まれた「千冬」

なりたいものに姿を変えられる体質を活かし、情報屋を生業としていた。

特に遊女の姿は受けがよく、美しく着飾れば人間は簡単に秘密を暴露し、金を落とす。

その日の早朝も、客の相手をした気怠い体を引きずりながら、山の麓にある狐一族の村へ帰ろうと町を後にしようとしていたところだった。

昇る朝日に目が眩み、ふらついた身体が何かにぶつかった。

 ー …人間か

掠れた声で詫びの台詞を言いながら視線を上げると、若い青年が心配そうな面持ちでこちらを覗き込んでいた。

その瞳に千冬は驚いた。

人間は皆、欲に塗れた濁った瞳の色をしている。

色、声、香、味、触…これに執著する。

だが、青年は違った。濁りのない澄んだ目をしていた。瞳だけではない、雰囲気が違うのだ。

「大丈夫ですか?」と青年は言った。

それは優しく深い声音だった。

千冬は青年に頭を下げ、再び家路へと足を向けた。

 ー あのような人間もいるのか…

何故だか千冬の口元は少し緩んだ。

千冬は人間を「生きるための道具」としか捉えていなかった。

九尾の狐と関わった人間は、罪として魂を奪われる。妖狐はその魂を餌として生を繋ぎ、不老不死の体を保っている。

女であろうと子供であろうと、どんなに命乞いをしてこようが少しでも関われば抹殺する…それが九尾の狐として千冬がこれまで行ってきたことだ。

ーーーー

二日後のこと。

千冬は町へ買い物に来ていた。

狐一族の村には商い屋が一軒もないため、入り用は全て町へ来るしかなかった。

簪屋で物色をしていると、聞き覚えのある声がした。

声の方向へ顔をやると先日の青年が立っていた。

千冬が手に持っている簪に目を落とし、

「其れ、貴方に似合うと思います」

と、またあの優しく深い声音で言った。

青年は佐々木幸明と名乗った。

千冬は、自分の鼓動が高鳴ったのを感じた。

 ー 私の血肉となるのに、なぜ…

千冬は町へ行く度に、幸明と茶屋で話をするようになった。

幸明と言葉を交わすと胸の奥が微かに色付くような感覚に陥り、千冬はそれが何より心地良かったのだ。

自分の素性を何一つ語れない千冬に、幸明は微笑みながら「千冬さんが話したいと思ったら話してください」と言った。

この日も千冬は幸明と茶屋で語り合い、そろそろ帰ろうと二人で店を後にした時だった。

ー…ポツリ…ー

雨だ。

それはすぐに激しい夕立に変わった。

「家がすぐそこなので雨宿りをしましょう」、と幸明が提案をした。

幸明の自宅に着くと手拭いを渡され、千冬は濡れた着物と髪の毛の雫を取った。

手拭いを返そうと礼を言いながら幸明へ渡すと、千冬の右手に熱が伝わった。

幸明の指が触れたのだ。

気付いた千冬は手を引こうとした。

だが、幸明はしっかり握り締めてきたのだ。

雨の雫を吸った手拭いは、床へと落ちてしまった。

幸明は真っ直ぐ、あの澄んだ瞳で千冬を捉えている。

そして幸明の唇が開き、言葉が聞こえてきた。

 ー …しています

強い雨音で消えかかってはいたが、確かに聞こえた。

「お慕いしています」

と。

触れている指先から伝わる熱は、千冬が知っているものではなかった。

今まで出会ってきた人間は皆、冷たい熱を持っていた。

その場限りの、偽物の温もりだ。

千冬が戸惑っていると、

「もう一度、言います」

と、ふわりと抱き寄せられ耳元ではっきりとした幸明の想いが聞こえた。

それはいつもの優しく深い声音だった。

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『好きです』

千冬は、仕事場として借りている宿場の自室で身支度をしながら、昨日の幸明の言葉を頭の中で反芻していた。

これまで言い寄ってくる人間は何人も居た。

その度に適当に受け流し、ましてやそれを思い返すこともなかった。

 ー そう言えば、幸明と会う時は紅を引いていなかった

   彼は化粧をする女を好むのか…?

千冬は紅を刺しながら、そんなことを思った。

襖の向こうから客が来た合図がした。

 ー …仕事に向かわなければ

次の日も、そのまた翌日も、千冬は幸明の言葉を忘れられずにいた。

「ただ、自分の気持ちをお伝えしたかっただけなので」

幸明は千冬の返事をすぐには聞こうとしなかった。

「千冬さんがよければ…また貴方と会いたい」

その後も二人は茶屋で話をし、幸明の自宅で逢瀬を続けていた。

千冬は、幸明と出逢ってからの日々が純粋に楽しかった。

これまで、ただただ一族と自身のために人を騙し殺めてきた白黒の日常が、彩られたように感じていた。

だから、正体も素性も隠したまま幸明と共に過ごす日々を選んだ。

選んでしまった。

ーーーーー

その頃、妖狐の村ではちょっとした騒ぎが起きていた。

【千冬が人間を生かしたままにしている】

妖狐仲間から一族の長である父・景由へと伝わり、千冬は尋問を受けることとなった。

ー 明日の逢魔時、その人間を殺せ ー

それが景由からの命だった。

千冬は、あの青年だけは見逃して欲しいと懇願したが、聞き入れてはもらえなかった。

妖狐と関わった人間は抹殺をするのが式たりだ。

例外は一切認められない。

父・景由も、かつて友人だった人間を自らの手で殺した過去を持つ。

「妖狐として生まれたお前の定めだ。お前は人間ではない。九尾の狐だ」

景由は温度のない瞳を千冬に向けた。

翌日。

魔物が現れる時とされる、逢魔時。

千冬は通いなれた幸明の自宅までの道のりを進む。右手には短刀が握られていた。いつも人間を殺める時に使っているものだ。

ー 幸明を殺す ー

 一 族の長の命には逆らえない

  …私は九尾の狐

  人を騙し喰らう、ただの化け物だ

幸明の自宅の扉を叩く。

いつもは約束をして訪ねてくる千冬に幸明は少し驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔で迎え入れてくれた。

だがその笑顔は、千冬が振り翳した短刀により怯えた表情へとすり替わった。

初めてだった。

たわいも無い話をするだけで、時が過ぎるのが早く感じた。

普段相手にする客は派手に化粧をし着飾れば喜んだが、君と会う時は着物の色も紅を引くかも迷い、悩んだ。

名を呼んで笑いかけてくれるのが嬉しくて、繋いだ手があんなにも温かなものだとは知らなかった。

 ー …あぁ、だめだ。やはり殺せない

  でも…私は、私は九尾の狐…人を騙し喰らうただの…

「かはっ…」という声と共に血を吐き、その場に膝をつく幸明。

赤い、紅い、朱い、アカイ…。

幸明の胸を刃が貫き、血が溢れ出ている。

「な、…んで…」

「…お前が早くせぬからだ」

千冬の耳に届いたのは、父・景由の声だった。

幸明の心臓を刺したのは千冬の短刀ではなく、景由の刀だった。

千冬が殺せないと見込んで、景由は先に幸明のところへ来ていた。

景由はまた、あの瞳を千冬に向けた。

その視線の中に、千冬は一瞬の揺らぎを見たような気がした。

千冬の身体はまるで呪いをかけられたかのように、短刀を振り翳したまま動けず声も出ない。

先程まで「千冬さん」と、自分の名前を模った幸明の唇からは鮮やかな赤が絶えず流れ落ちている。

 ー 早く、早く、血を止めなければ。

   死んでしまう…!

幾度となく千冬を映した澄んだ瞳は、色を失い黒く沈んでいく。

幸明の首ががくりと垂れ下がった。

 ー 幸明…

   死んでしまったの…?

ゆっくりと、幸明に刺さった刀が魂を吸い取っていく。

千冬は相変わらず、その光景を見つめることしかできなかった。

 ー 此れは今まで私が行ってきたことへの罰か

   もう数え切れない程の人間を殺めてきた

   自分の生のため、長きに渡る一族のため

   何人もの血を浴びてきた

   此れが、罰なのか…ー

千冬は身体中が虚になるのを感じた。

そして乾いた唇を懸命に動かした。

「赦してください…赦してください…」

何度も何度も、呟いた。

 ー 赦してください、私のいのちと引き換えに幸明を返して下さい

   赦して、赦して…

千冬は泣いた。

子供のように咽び泣いた。

赦しを乞う言葉を、声が枯れ果てるまで叫び続けた。

 ー 言えなかった…

   正体を…本当のことを

   この想いを

   伝えたかった…

   君には伝えたかったのに…

   …伝えたかった…?なにを…?

千冬は短剣を持つ手を力無く下ろした。

「そうか、私は恋をしていたのか」

あたらよ|ハシマミ
※転載禁止

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■九罪の数え歌

ひとつ きゅうのおもつこは
ふたつ うつせみたらす
みっつ きららかにそうぞき
よっつ いとあましにおい
いつつ にくげなりしし
むっつ それこいわびにけり
ななつ ふせうただびと
やっつ わがてでけそう
ここのつ わがてでけそう

■こい文

それはひどく弛し早天
君と瞳 交わって
纏う色は 何処か違って
淡く 淡く 頬染めた

語るだけで 胸を潰し
触れた熱は 知らぬものでした
微笑むだけで 心彩る
何もかもが 鮮やかで

「これは定めて 命とだ」と
強く私を抱き寄せる
そっと肌に手を這わせれば
奥床し心地になる

雨に隠れ  重ねる鼓動
分け合う熱は 知らぬものでした
髪を撫でて  唇落とし
何もかもが  倖で

どうか どうか 忘れてください
私は醜い妖です
嘘を紡ぎ たうらい奪う
君もその心算でした
思いもらう ちりの末
絡めた指に くゆ募りました

朱く移ろう君の姿に
何もかもを 侘びて乞う…

どうか どうか 赦してください
私は醜い妖です
人を騙し 人を喰らう
君もその心算でした

どうか どうか 忘れさせて
私を愛した 愛し君
深い声音 残り香 全て
どうか 忘れさせて
紅を引くか 迷い悩むのは
君に出逢って初めてでした

画像素材:AdobeStock、Pixabay

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